非常用発電機を設置すれば、災害や停電時でも電力を確保でき、安心して避難や事業継続が可能になります。 非常用発電機にはさまざまな種類があり、燃料の違いや発電の仕組みによって特徴が異なります。適切な発電機を選ぶためには、それぞれの仕組みや法規制を理解することが重要です。
今回は、非常用発電機の基本知識や仕組み、種類、選び方を詳しく解説します。防災対策やBCP(事業継続計画)に役立つ情報を知り、適切な導入を進めましょう。
非常用発電機とは
非常用発電機は、災害や停電時でも電力を確保できる設備であり、安心して生活や事業を継続するために欠かせません。ガスやガソリンなどを燃料として発電し、停電時でも電気を使える環境を整えることができます。
この設備は法律でも基準が定められています。
消防法による定義
- 定格負荷で60分以上連続運転できること
- 燃料油は2時間以上の容量であること
- 40秒以内に電圧確立できること
建築基準法による定義
- 防災設備に30分以上の電力供給ができること
- 30分以上の連続運転ができる容量を持つこと
- 40秒以内に電圧を確立できること
このように、非常用発電機の要件は法令によって細かく規定されており、設置場所や用途によって適用される基準が異なります。導入を検討する際には、これらの基準を正しく理解することが重要です。
より詳しい情報については、経済産業省が提供するガイドラインを確認し、適切な選定と運用を行うことをおすすめします。
非常用発電機の必要性
非常用発電機は、災害や停電時に電力を確保し、安全な避難や事業継続を可能にする重要な設備です。停電による影響を最小限に抑え、社会機能の維持に貢献します。
特に、避難の支援や消防活動の電源確保、企業の事業継続計画(BCP)対策としての役割が求められています。ここでは、非常用発電機の必要性について解説します。
緊急事態における電力の確保
非常用発電機があれば、停電時でも電力を供給できるため、迅速な避難や最低限の生活環境を維持できます。
災害時に照明が確保されることで安全な移動が可能になり、通信機器の使用も継続できるため、情報共有や救助活動が円滑に進みます。また、消防活動の際には、非常用発電機が電源として機能し、消火設備や照明の電力供給を担うことで、救助作業を支援します。
BCP(事業継続計画)への貢献
非常用発電機は、企業のBCP対策としても不可欠です。
BCPとは、巨大地震や台風、洪水などの自然災害、火災やシステム障害といった緊急事態が発生した際に、事業の被害を最小限に抑え、中核業務を迅速に再開・継続するための計画です。その中でも、停電リスクの低減は大きな課題となっています。
非常用発電機を設置することで、災害発生時にも速やかに電力を供給し、事業の維持・復旧を可能にします。結果として、企業の生産性やサービス提供の継続が実現し、信頼性の向上にもつながります。
このように、非常用発電機は、防災対策としてもBCPの観点からも重要な役割を果たします。適切な設備の導入により、緊急時の安全性と事業の継続性を確保することができます。
非常用発電機の種類と仕組み
非常用発電機には、大きく分けて「ディーゼルエンジン」と「ガスタービン」の2種類があり、それぞれ特性や仕組みが異なります。ここでは、それぞれの概要と仕組みについて解説します。
ディーゼルエンジンの仕組み
ディーゼルエンジンは、燃料を燃焼させることでピストンを動かし、発電機を回転させて電力を生み出します。このエンジンは4つの行程(吸入・圧縮・燃焼・排気) を繰り返すことで動作します。
- 吸入:シリンダー内に空気を取り込む。
- 圧縮:空気を圧縮し、高温・高圧状態にする。
- 燃焼:霧状の燃料を噴射し、自己着火させることでピストンを押し下げる。
- 排気:燃焼後のガスを排出する。
このサイクルを繰り返すことで、安定した電力供給が可能となります。

画像引用元:3.4 非常用発電装置(農林水産省)
ガスタービンの仕組み
ガスタービンは、コンプレッサー、燃焼器、タービン、発電機 で構成されており、燃焼ガスの膨張エネルギーを利用してタービンを回転させ発電を行います。
ガスタービンの特徴として、高速回転が可能で、軽量かつコンパクトな設計であること が挙げられます。また、振動が少なく冷却水が不要なため、メンテナンスの負担が比較的軽減されるというメリットがあります。

画像引用元:3.4 非常用発電装置(農林水産省)
ディーゼルエンジンとガスタービンの違い
ディーゼルエンジンとガスタービンの最も大きな違いは作動原理 です。

画像引用元:3.4 非常用発電装置(農林水産省)
ディーゼルエンジンはピストンの往復運動 を利用して動力を得るのに対し、ガスタービンは燃焼ガスの膨張エネルギーを直接タービンに伝え、回転運動に変換する仕組みになっています。
ディーゼルエンジンは燃費効率に優れ、長時間の連続運転に適しているため、非常用発電機として幅広く採用されています。一方、ガスタービンは軽量で立ち上がりが早く、大容量の電力を短時間で供給できるため、大規模な施設やデータセンターなどで使用されることが多くなっています。
このように、それぞれの発電方式には特性があるため、設置環境や用途に応じた選定が求められます。
他にも、ディーゼルとガスタービンの違いをまとめると下の表のようになります。
ディーゼルエンジンとガスタービンの違い
ディーゼルエンジン | ガスタービン | |
作動原理 | 燃焼ガスの熱エネルギーを一旦ピストンの往復運動に変換し、その後回転運動に変換(往復運動→回転運動) | 燃焼ガスの熱エネルギーを直接タービンで回転運動に変換 |
燃焼消費率 | 210~310 [g/kwh] | ガスタービンの燃料消費率はディーゼルエンジンに比べて高い(260~680 [g/kWh]) |
使用燃料 | 軽油、A重油など | 灯油、軽油、A重油、天然ガスなど |
体積・重量 | 部品の数が多く、重量が大きい | 部品の数が少なく、寸法、重量とも小さく軽い |
保守性 | 定期的な保守運転・管理が必要点検頻度はガスタービンより多いが、点検整備はほとんど現地で可能 | 点検箇所が少なくて済むただし、定期整備はメーカーの工場へ持ち込む必要がある |
冷却水 | 44~55 [L/kWh](放流式) | 不要 |
非常用発電機に関する法令
非常用発電機は、法令によって設置や維持管理の基準が定められています。特に「消防法」「建築基準法」「電気事業法」において、安全性や機能性を確保するための規定が設けられており、それぞれの目的に応じて適用される基準が異なります。ここでは、それぞれの法令が非常用発電機にどのように関わるのかを解説します。
非常用発電機はこれらの法令のもとで厳格に管理されており、それぞれの法令に基づいた適切な設置・維持が必要です。導入時には、施設の用途や設置場所に応じた法規制を確認し、適切な設備を選定することが求められます。
消防法における規定
消防法では、一定の施設において防災設備の設置を義務付けています。学校、病院、工場、百貨店、旅館、飲食店、地下街などの防火対象物には、消防用設備として消火栓や排煙設備のほか、非常用発電機を含む非常電源の設置が求められます。
また、消防法施行令では、非常用発電機の性能要件が定められており、「定格負荷で60分以上連続運転できること」「燃料を2時間以上確保できること」「40秒以内に電圧を確立できること」などの基準を満たす必要があります。これにより、火災や災害時にも確実に電力を供給できる仕組みが整えられています。
さらに、消防法では非常用発電機を含む消防設備の定期点検の義務も規定されています。点検内容は「消防法施行規則第三十一条の六」に基づき、施設の種類や規模に応じて適切に実施し、点検結果を行政機関に報告しなければなりません。
建築基準法における規定
建築基準法では、一定の用途を持つ建築物に対し、非常用発電機などの予備電源を設置することを義務付けています。特に、「特殊建築物」 に分類される建物(学校、病院、劇場、百貨店、共同住宅、工場、倉庫など)では、安全確保のための防災設備が必要とされます。
建築基準法施行令では、非常用エレベーター、非常用照明、避難誘導設備などの電源として、非常用発電機の設置が義務付けられています。これにより、災害時でも避難経路が確保され、建物の安全性が維持されます。
また、設備の維持管理についても規定されており、非常用発電機の性能を確保するために、おおむね半年から1年に一度の定期点検と行政機関への報告が義務付けられています。これにより、緊急時に確実に作動する状態を保つことが求められます。
電気事業法における規定
非常用発電機の中には、電気事業法で定める「電気工作物」に該当するものがあります。電気工作物とは、発電、蓄電、変電、送電、配電、電気の使用を目的とする設備を指します。
非常用発電機が「電気工作物」に該当する場合、電気事業法の保安規程に基づき、定期的な点検と維持管理が義務付けられます。これにより、発電機の安全性と安定した運用が確保されるようになっています。
参照元:
非常用発電機の導入の流れ
非常用発電機を導入する際は、適切な容量の選定、発電機の種類の決定、騒音対策の確認 が重要です。設置環境や用途に応じた発電機を選び、法令を遵守した運用を行うことで、災害時の電力確保を確実にし、周辺環境への影響を最小限に抑えることができます。最後に、導入の際に考慮すべきポイントについて解説します。
容量の決定
非常用発電機を導入する際、まず必要な電力容量を決めることが重要です。
発電機の容量は、停電時にどれだけの電力を必要とするかによって決まります。そのため、使用する設備や機器の消費電力を正確に把握し、必要最低限の電力を確保できる容量を選定する必要があります。
特に、保安用照明設備の容量は、停電時でも照明を維持するために重要な要素です。一般的に、通常の電灯設備容量の約30%を目安に算出 することが推奨されています。
非常用発電機の種類の決定
発電機の容量が決まったら、次に適切な種類の発電機を選定します。先ほど解説したように、非常用発電機には、大きく分けて「ディーゼルエンジン」と「ガスタービン」の2種類があり、それぞれ特性が異なります。
ディーゼルエンジンは、経済性が高く、短時間で始動できる特性を持つため、出力が数10〜300kVA程度の設備に適しており、農業や農村整備事業などで広く利用されています。
一方、ガスタービンは技術の進歩により中・大容量発電機としての導入が増えており、振動が少なく冷却水が不要であるという利点があります。
設置環境や用途に応じて、どちらの発電機が適しているかを慎重に検討することが大切です。
騒音対策の確認
非常用発電機の導入にあたっては、騒音対策も重要なポイントです。設置する地域によっては、騒音規制法に基づいた基準を満たす必要があり、施設の敷地境界線での騒音レベルが規定値以下であることが求められます。
特に、騒音規制法(昭和43年法律第98号)の第2条第1項において「特定施設」に分類される発電設備は、第3条第1項に基づき、地域ごとの騒音規制基準に適合する必要があります。また、ポンプ場などの無指定区域に設置される場合でも、周辺環境への影響を考慮し、適切な防音対策を講じることが推奨されます。
昼間[dB(A)] | 朝夕[dB(A)] | 夜間[dB(A)] | 区域の定義 | |
---|---|---|---|---|
第1種区域 | 45以上50以下 | 40以上45以下 | 40以上45以下 | 良好な住居の環境を保全するため、特に静穏の保持を必要とする区域 |
第2種区域 | 50以上60以下 | 45以上50以下 | 40以上50以下 | 住居の用に供されるため、静穏の保持を必要とする区域 |
第3種区域 | 60以上65以下 | 55以上65以下 | 50以上55以下 | 住居の用に合わせて、商業工業等の用に供される全区域であって、その、区域内の住民の生活を保全するため、騒音の発生を防止する必要がある区域 |
第4種区域 | 65以上70以下 | 60以上70以下 | 55以上65以下 | 主として工業等の用に供される区域であってその区域内の住民の生活環境を悪化させないため、著しい騒音の発生を防止する必要がある区域 |
非常用発電機を導入する際は、これらの規制を遵守し、周辺環境への影響を最小限に抑えることが求められます。
まとめ
非常用発電機は、災害や停電時に電力を確保するための重要な設備であり、安全な避難や事業継続を支える役割を担っています。導入することで、停電時でも最低限の電力を確保でき、迅速な避難や施設の維持が可能になります。また、企業にとってはBCP(事業継続計画)の一環としても有効であり、災害時のリスクを低減できます。
非常用発電機には、大きく分けて「ディーゼルエンジン」と「ガスタービン」の2種類があり、それぞれ異なる動作原理を持っています。ディーゼルエンジンは、燃焼ガスの熱エネルギーをピストンの往復運動に変換し、その後回転運動へと変換する仕組みです。一方、ガスタービンは燃焼ガスの熱エネルギーを直接タービンに伝え、回転運動を発生させます。
この違いにより、ディーゼルエンジンは燃費効率に優れ、ガスタービンは軽量かつ振動が少ないといった特性を持っています。設置環境や用途に応じて、適切な発電機を選択することが重要です。
また、非常用発電機の設置や運用には法令の遵守が求められます。消防法、建築基準法、電気事業法などに基づき、施設の種類や用途に応じた適切な設備基準や維持管理が必要です。特に、定期的な点検や保守が義務付けられており、非常時に確実に作動する状態を維持することが求められます。
非常用発電機の導入を検討する際には、適切な容量や種類の選定、騒音対策、法令遵守など、多くの要素を考慮する必要があります。災害時の電力供給を確保し、安全性を高めるために、設備の選定と計画的な運用を行いましょう。
小川電機では、非常用発電機の導入をサポートしています。詳細なご相談や無料見積もりをご希望の方は、ぜひお問い合わせください。