マンションへの非常用発電機の導入を検討中でしょうか?マンションの中には、非常用発電機の設置が義務づけられているものもあるため注意が必要です。
今回は、マンションへの非常用発電機の導入の法的根拠、メリットについて解説します。本記事を読めば、マンションへの非常用発電機の導入の重要性について理解できるでしょう。
マンションの非常用発電機とは
非常用発電機とは、停電が発生した際にマンション内で必要最低限の電力を供給するための設備です。たとえば、共用部の照明やエレベーター、水道ポンプ、オートロックなど、停電時に機能停止すると生活に大きな影響を与える設備に電力を供給します。
燃料の種類には、軽油を使用するディーゼル発電機や、クリーンエネルギーであるLPガスを使用する発電機などがあり、マンションの規模や設置環境に応じて選ばれます。また、近年では環境負荷を低減したハイブリッド型の非常用発電機も注目されています。
マンションが停電した場合の弊害
マンションが停電すると、たとえば次のような弊害が発生する可能性があります。
- エレベーターが停止する
- オートロックが機能しない
- 水道が止まる
エレベーターが停止する
停電が発生すると、エレベーターが使用できなくなる可能性があります。場合によっては非常階段から避難しなければなりません。たとえば、2018年の西日本豪雨では、高層マンションでの避難が困難となった事例が報告されています。
このような状況になれば、高層階に住んでいる人は不便になります。また、重い荷物を持って移動しなければならない場合、階段での移動が大変になります。
オートロックが機能しない
停電が発生した場合、オートロックが機能しなくなる可能性があります。その場合、誰でもマンションに入ることができる状態になるため、セキュリティ上問題となります。
夜間や外出中に不審者が入りやすくなる恐れがあり、住民が不安を感じる原因となります。
水道が止まる
マンションの水道ポンプは、電気で動いています。そのため、停電になると、水が使えない可能性があります。その結果、トイレや風呂が使えず、長期化すると衛生面にも影響が及びます。
非常用発電機のマンションへの設置義務
マンションへの非常用発電機の設置は、消防法や建築基準法で規定されています。ここでは、それぞれの法律でどのように定められているのか解説します。
建築基準法
マンションの中には、特殊建築物に該当するものがあります。特殊建築物とは、建築基準法第2条2項で次のように定義されています。
特殊建築物
学校(専修学校及び各種学校を含む。以下同様とする。)、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。
このように、特殊建築物とは、不特定多数の人間が出入りをするような建築物のことを指します。マンションも多くの人が出入りする建築物であるため、特殊建築物に該当する場合があります。
建築基準法によると、このような特殊建築物には、次のように避難および消火に関する設備(非常用発電機を含む予備電源)を設置しなければなりません。
(特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準)
第三十五条
別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供する特殊建築物、階数が3以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に2以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計)が1000㎡をこえる建築物については、廊下、階段、出入口その他の避難施設、消火栓、スプリンクラー、貯水槽その他の消火設備、排煙設備、非常用の照明装置及び進入口並びに敷地内の避難上及び消火上必要な通路は、政令で定める技術的基準に従つて、避難上及び消火上支障がないようにしなければならない。
他にも、建築基準法施行令によると、次のような設備には非常用発電機などの予備電源を設置する必要があります。
- 屋内に設ける避難階段の照明設備(第123条)
- 特別避難階段の照明設備(第123条 第3項の5)
- 電源を必要とする排煙設備(第126条の3)
- 非常用の照明装置(第126条の5)
- 乗降ロビーの照明設備(第129条の13の3 第3項の6)
- 非常用エレベーター(第129条の13の3 第10項)
なお、避難階段は、照明設備の代わりに「窓その他の採光上有効な開口部」の設置でも構わないと記載されています。
このように建築基準法では、緊急事態でも問題なく避難ができるよう、避難階段や非常用エレベーター、排煙設備などに非常用発電機のような予備電源を配置しておかなければならないとされています。
消防法
消防法では、以下のような施設で防災設備を設置しなければならないと規定されています。
消防法第十七条
学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設(以下「消防用設備等」という。)について消火、避難その他の消防の活動のために必要とされる性能を有するように、政令で定める技術上の基準に従つて、設置し、及び維持しなければならない。
マンションも防火対象物に含まれているため、防災設備を設置しなければなりません。また、消防法施行令の中で以下のような設備に非常用発電機などの非常電源を設置することが定められています。
- 屋内消火栓設備(第11条の3)
- スプリンクラー設備(第12条の2の7)
- 水噴霧消火設備(第14条の6)
- 泡消火設備(第15条の7)
- 全域放出方式又は局所放出方式の不活性ガス消火設備(第16条の7)
- 全域放出方式又は局所放出方式のハロゲン化物消火設備(第17条の6)
- 全域放出方式又は局所放出方式の粉末消火設備(第18条の6)
- 屋外消火栓設備(第19条の6)
- 自動火災報知設備(第21条の1 2の4)
- ガス漏れ火災警報設備(第21条の2 2の4)
- 非常警報設備(第24条の4)
- 誘導灯(第26条 2の4)
- 排煙設備(第28条 2の4)
- 地階を除く階数が11以上の建築物に設置する連結送水管に設置する加圧送水装置(第29条 2の4)
- 非常コンセント設備(第29条の2 2の3)
このように、非常事態でも問題なく消火や避難が遂行できるように、マンションの防災設備には非常用発電機などの非常電源を設置するように定められています。
参照元:
マンションに非常用発電機を設置するメリット
マンションに非常用発電機を設置することは以下のようなメリットがあります。
- 停電時にエレベーターを利用できる
- 停電時に水道を利用できる
- 共用部の照明がつけられる
停電時にエレベーターを利用できる
非常用発電機を設置することで、停電時でも一部のエレベーターが利用できるようになります。特に、非常用エレベーターは建築基準法で次のように定められています。
(昇降機)
第三十四条
建築物に設ける昇降機は、安全な構造で、かつ、その昇降路の周壁及び開口部は、防火上支障がない構造でなければならない。
2
高さ31mをこえる建築物(政令で定めるものを除く。)には、非常用の昇降機を設けなければならない。
このように、マンションの高さが31mを超える場合、非常用エレベーターを設置しなければなりません。
停電時に水道を利用できる
水道のポンプを作動させるには電気が必要です。非常用発電機を設置することで、停電時でも水道の供給が可能になります。特に、ディーゼル式発電機は長時間の運転が可能であり、大規模マンションに適しています。
共用部の照明がつけられる
非常用発電機を設置しておくことで、非常時にも共用部の照明をつけられます。室内で待機する場合、マンション外へ避難する場合どちらにおいても共用部が明るいと移動しやすくなります。
なお、先ほど解説したように、建築基準法第35条の「特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準」において、一定規模以上の建築物では、共用部の照明は非常時にも点灯できるようにしなければならないとされています。
非常用発電機は定期的な点検が必要
先ほど解説したように、建築基準法や消防法、電気事業法では、非常用発電機の設置が義務づけられています。それだけでなく、マンション管理者は、建築基準法や消防法、電気事業法に基づき、非常用発電機の維持・点検を行う義務があります。
消防法では、次のように定められています。
消防法
第十七条の三の三 第十七条第一項の防火対象物(政令で定めるものを除く。)の関係者は、当該防火対象物における消防用設備等又は特殊消防用設備等(第八条の二の二第一項の防火対象物にあつては、消防用設備等又は特殊消防用設備等の機能)について、総務省令で定めるところにより、定期に、当該防火対象物のうち政令で定めるものにあつては消防設備士免状の交付を受けている者又は総務省令で定める資格を有する者に点検させ、その他のものにあつては自ら点検し、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない。
このように、消防法では消防設備の定期的な点検が義務付けられています。
点検の内容については「消防法施行規則第三十一条の六(消防用設備等又は特殊消防用設備等の点検及び報告)」で定められており、たとえば次のような規定があります。
- 消防設備の点検は、設備の種類や点検する内容に応じて、1年以内で消防庁長官が定める期間ごとに行わなければならない
- 不特定多数の者が出入りしたり、身体的弱者が利用したりする施設では1年に1回点検を行わなければならない
- 点検のやり方や報告書の様式は、消防庁長官が定める
- どの資格を取得したものが、どの点検をする許可があるのかは、消防庁長官が定める
また、建築基準法では、おおむね半年から1年に一度点検し、その結果を特定行政庁へ報告しなければならないという規定があります。
他にも、電気事業法では、非常用発電機が事業用電気工作物である場合、保安規程によって点検しなければならないとされています。
参照元
マンションへの非常用発電機の設置に補助金を使用できるケース
自治体によっては、マンションへの非常用発電機の設置に補助金を適用できる場合があります。
たとえば、東京では、2024年8月から2025年1月まで「東京とどまるマンション非常用電源導入促進事業補助金」を実施しています。
東京都では、停電時でもマンション内で避難生活を送れるような設備の配備、そして、居住者間で行う防災活動によって、自宅での生活を継続しやすいような取り組みを行っている共同住宅を「東京とどまるマンション」と定め、普及啓発に取り組んでいます。
「東京とどまるマンション」制度は、耐震性を有し、次の登録基準の両方または片方を満たすマンションなどの共同住宅が対象です。
- 非常用電源に関する登録基準:コージェネレーションシステム、自家発電設備、太陽光発電システム及び蓄電池など停電時の水の供給やエレベーターの運転に必要な電力の供給が可能な電力供給設備が設置されていること
- 防災活動に関する登録基準:防災マニュアル策定と防災活動、防災訓練の実施、飲料水・食料の備蓄、応急用資器材の確保、連絡体制の整備などのような防災活動を実施していること
「とどまるマンション」に認定されると、非常用発電機の導入の際に、東京都から補助金が支給されます。この補助金制度では、非常用発電機の費用の半額を負担してもらえます(限度額は1,500万円まで)。
東京都以外にも、マンションへの非常用発電機の導入に対して補助金を支給する自治体はあります。そのため、ご自身で所有しているマンションの地域の自治体を調べ、補助金が使えないか確認してみてください。
まとめ
マンションでは、エレベーターや共用部の照明、水道のポンプなどさまざまな領域で電力が使われています。そのため、災害が発生し停電状態になってしまうと生活に大きな支障が生じます。
このような状況を避けるため、建築基準法や消防法などで防災設備の設置が義務付けられています。非常用発電機も防災設備の一種として設置が義務付けられており、マンション管理者は非常用発電機の設置および定期的な点検作業を行う必要があります。
当社小川電機では、非常用発電機に限らず、さまざまな防災設備を取り扱っています。マンションの防災設備の導入を検討している方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。