
キュービクルとは、受変電設備の一種で、商業施設や店舗、工場、オフィスビルなど、建物や施設に必要な電力を供給するために使用される高圧機器の集合体です。主に変圧器や開閉器を含み、保護と効率を兼ね備えた装置です。
古いキュービクルは、PCB(ポリ塩化ビフェニル化合物)という物質に汚染されている危険性があります。その際は、無断で処分することが禁じられており、法的に定められた手続きにより処分を遂行する必要があります。
では、PCBに汚染されたキュービクルはどのように処分すれば良いのでしょうか?今回は、そもそもPCBとは何か、そしてどのように処分すれば良いのか解説します。
PCBとは
PCBとは、「ポリ塩化ビフェニル化合物(polychlorinated biphenyl)」の略称で、人工的に作られた油状の化学物質です。
![PCB]()
参照元:
PCBとは?なぜ処分が必要か?(環境省)
PCBには、次のような特徴があります。
- 水に溶けにくい
- 化学的に安定している
- 沸点が高い
- 熱で分解しにくい
- 不燃性である
- 電気絶縁性が高い
このように、PCBは優れた特徴をもっています。そのため、変圧器やコンデンサーなどに使用する絶縁油としてキュービクルに使用されてきました。
しかし、1966 年以降、スウェーデンの魚やワシなど、世界各地の魚や鳥の体内からPCBが検出されるようになり、PCBが環境を汚染していることが判明しました。日本でも、1968年に西日本を中心に、カネミ油症事件と呼ばれるライスオイル(米ぬか油)による食中毒事件が起きました。この事件では、その食用油を口にした方に頭痛や手足のしびれ、胎児の異常などさまざまな障害が発生してしまいました。
このように、
PCBは強力な急性毒性はありませんが、長期間の摂取により体内に蓄積され、人体に悪影響を及ぼすことが判明しました。たとえば、人に対しては次のような悪影響を及ぼすことがわかっています。
- 目やに
- まぶたの膨張
- 爪や口腔粘膜の色素沈着・黒化
- 座瘡様の発疹(ニキビ)
- 肝臓肥大・機能不全
このような経緯のなか、日本では1972年にPCBの製造・輸入・使用が禁止されるようになりました。
また、世界的にもPCBを廃絶する運動が始まりました。実際PCBは、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」の代表的な規制対象物質に指定され、2028年までの廃絶が目指されています。
国内でも2001年にポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)が成立・施行され、2027年3月31日を期限に処理が実施されています。
1990年までに製造されたキュービクルにはPCBが含まれている可能性があることから、PCB特措法では事業者はPCBが含まれた製品を処分することが法律で義務付けられています。
「高濃度PCB含有電気工作物」と「低濃度PCB含有電気工作物」とは
キュービクル内でPCBに汚染されている可能性があるのは、たとえば次のような装置です。
- 変圧器
- 電力用コンデンサー
- 計器用変成器
- 開閉器
- 遮断器
- リアクトル
参照元:
低濃度PCBの調査及び適正処理について(公益財団法人産業廃棄物処理事業振興財団)
これらの装置がPCBに汚染されていた場合、国が定めたとおりに処分する必要があります。そのためには、PCB汚染物をPCBの濃度によって2種類に分類しなければなりません。
- PCB濃度が5,000mg/kg(重量比0.5%)を超えるもの:高濃度PCB含有電気工作物
- PCB濃度が0.5mg/kg超(重量比0.00005%)〜5,000mg/kg(重量比0.5%)以下のもの:低濃度PCB含有電気工作物
以下では、この2つの区分について具体的に解説します。
高濃度PCB含有電気工作物
高濃度PCB含有電気工作物とは、
PCB濃度が5,000mg/kg(重量比0.5%)を超えるものです。
これまで高濃度PCB含有電気工作物は、国が中心となり、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の事業所が全国5ヶ所に整備され、処理を進めてきました。その後、2022年3月末に、すべての地域で処分期間を迎えました。そのため、2024年現在は、法令上受入契約ができない状態となっています。
事業所内に高濃度PCB含有電気工作物がまだ残っている場合は、自治体またはJESCOに速やかに連絡するようにしてください。
低濃度PCB含有電気工作物
低濃度PCB含有電気工作物とは、
PCB濃度が0.5mg/kg(重量比0.00005%)超〜5,000mg/kg(重量比0.5%)以下のものです。
低濃度PCB含有電気工作物は、高濃度PCB含有電気工作物と比べて量が多いため、
環境大臣が認定した民間の無害化処理認定施設や都道府県知事などが許可する民間の施設で処理するように定められています。
具体的には、以下のHPに掲載されている事業者が低濃度PCB含有電気工作物の処理を任されています。このHPに記載されているリストの中から委託する事業者を選択し、低濃度PCB含有電気工作物を処分してもらいましょう。
なお、低濃度PCB含有電気工作物は、2027年3月31日までに処分しなければならないと定められています。期限を過ぎると改善命令や罰則の対象となる可能性があるため注意が必要です。
キュービクルにPCBが含まれるか検査する方法
キュービクルにPCBが含まれているか検査する方法には、次の2つがあります。
- 電気工作物本体の銘板に書かれている製造者名や表示記号などを確認する(高濃度PCBの確認)
- 原則的には、絶縁油を分析する(低濃度PCBの確認)
ここでは、それぞれの方法について解説します。
電気工作物本体の銘板に書かれている製造者名や表示記号などを確認する方法
高濃度PCB含有電気工作物であるかどうかは、電気工作物本体の銘板に書かれている「種類」「製造者名」「表示記号等」からPCB汚染の可能性があるかどうか確認します。
具体的には、1953年〜1972年に国内で製造された変圧器とコンデンサーには、絶縁油にPCBが使用されています。詳しく高濃度PCB含有電気工作物に該当する電気工作物を調べたい方は、こちらから調べることができます。
絶縁油を分析する方法
高濃度PCB含有電気工作物でないことが確認できた場合、次に低濃度PCB含有電気工作物に該当するかどうかを判別します。
変圧器のように絶縁油を採取できる構造の電気工作物については、採取した絶縁油を分析機関へ分析依頼してください。具体的な分析依頼方法や手順については、環境省または認定分析機関のガイドラインを確認するようにしてください。分析した結果、PCB濃度が0.5mg/kg(重量比0.00005%)超であれば、低濃度PCB含有電気工作物に該当します。
具体的には、以下のようなフローチャートにしたがって、低濃度PCB含有電気工作物であるかを判別します。
![低濃度PCB含有電気工作物であるかの判別]()
参照元:
低濃度PCB廃棄物の調査方法(環境省)
まずは、製造年を確認します。たとえば、変圧器などは、1993年以前に製造されたものはPCB汚染されている可能性があるため、PCB濃度を測定します。また、1994年以降に製造されたものでも、絶縁油を入れ替えた場合は測定しなければなりません。
一方、コンデンサーなどは、1990年以前に製造されたものはPCB汚染されている可能性があるため、PCB濃度を測定します。
一般社団法人日本環境測定分析協会HPでは、PCB濃度の測定を委託できる機関を検索できます。
PCBが含まれたキュービクルの処分手順
先ほど解説したように、高濃度PCB含有電気工作物の回収期限は過ぎています。まだ処分していない高濃度PCB含有電気工作物がある場合は、自治体またはJESCOに速やかに連絡してください。
ここでは、特に2027年3月末までに処分しなければならない低濃度PCB含有電気工作物の
処分手順について解説します。
- キュービクルにPCBが含まれるか確認する
- (PCBが含まれていた場合)都道府県知事へ届出を提出する
- PCB廃棄物を適正に保管する
- 2027年3月末までに処分する
キュービクルにPCBが含まれているか確認する
「キュービクルにPCBが含まれるか確認する方法」で解説したように、キュービクルがPCB汚染されているか確認します。安全性の確保のため、キュービクルのPCB濃度の確認は次のように定められています。
- 確認作業をする前に、電気主任技術者、電気管理技術者、または電気保安法人に相談し、停電を伴う年次点検などの際に確認作業が実施できるようあらかじめ手順を決めておく。
- 確認作業は、感電死傷事故を起こす危険性があるため、必ず電気取扱者に行わせる。
(PCBが含まれていた場合)都道府県知事へ届出を提出する
PCBが含まれている場合、「電気事業法」と「PCB特別措置法」に基づき都道府県知事への届け出が必要です。
手続きに必要な書類は「PCB含有電気工作物設置等届出書」および「廃止届出書」です。
電気事業法とは、電気工作物の工事・維持・運用について、その設置者を規制する法律です。また、公共の安全を確保し、環境の保全を図ることを目的としています。
電気事業法では、キュービクルなどの自家用電気工作物の設置事業者に対して、自主的な保安体制の整備、確立を図るため、主任技術者、技術基準などに関する義務づけを行っています。実際、自家用電気工作物に関する主な規制内容として次のようなものがあります。
- 保安規程の作成、届出、遵守の義務
- 主任技術者の選任、届出の義務
- 技術基準の維持の義務
- 事故報告、公害防止等に関する届出の義務
- その他の義務
使用中の機器に低濃度PCBが含まれている場合は、産業保安監督部へ「PCB含有電気工作物設置等届出書」を届け出る必要があります。
また、
保管中・廃棄物の機器に低濃度PCBが含まれていた場合は、産業保安監督部へ「廃止届出書」を届け出る必要があります。
PCB廃棄物を適正に保管する
手続きには時間がかかりますが、その間処分するキュービクルを安全に保管する必要があります。低濃度PCB廃棄物は、次のような廃棄物処理法施行規則第8条の13に規定する保管基準に従わなければなりません。
- 周囲に囲いがあること
- 見やすい箇所に掲示板を設けること
- 飛散、流出、地下浸透、悪臭発散を防止する措置を講じること
- 他のものが混入しないように仕切りを設けるなどの措置を講ずること
- 容器に入れ密封するなど揮発防止のために必要な措置を講ずること
- 高温にさらされないために必要な措置を講ずること
- 腐食の防止のために必要な措置を講ずること
- 保管事業場ごとに特別管理産業廃棄物管理責任者を置くこと
廃棄物処理法施行規則第8条の13に違反した場合、事業者は行政指導や罰則の対象となる可能性があるため、必ず基準に従って保管してください。
![低濃度PCBの調査及び適正処理]()
参照元:
低濃度PCBの調査及び適正処理について(公益財団法人産業廃棄物処理事業振興財団)
このように、国に定めるとおりの保存方法を遂行し、処分までの期間に事故が起こらないよう努めましょう。
2027年3月末までに処分する
保管後は、PCB無害化処理事業者へキュービクル処理を委託します。委託先は、環境大臣の認定を受けた無害化処理認定業者と都道府県知事等の許可を受けた民間施設があります。
委託先は、以下のサイトで検索できます。
キュービクルの収集、運搬も、許可を得た収集運搬業者へ委託する必要があります。無害化処理認定業者の中には収集運搬も行っているところもあるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
まとめ
PCBが含まれているキュービクルを持っている際は、回収することが事業者に定められています。
PCB汚染の処理対象物は、濃度によって「高濃度PCB含有電気工作物」と「低濃度PCB含有電気工作物」の2つに分けられます。これらの区別の違いによって、処理方法が異なるため、事前にPCB濃度を測定し、分類する必要があります。
高濃度PCB含有電気工作物の処分は、すでに2022年3月末ですでに締め切られています。そのため、まだ高濃度PCB含有電気工作物を所有している事業者は、自治体やJESCOに速やかに連絡しましょう。また、低濃度PCB含有電気工作物を所有している事業者は2027年3月末までに規定の方法で処分を進めましょう。
PCB汚染されたキュービクルの処分は全事業者の義務となっています。2027年3月末の期限に間に合うように余裕をもって作業をしてください。
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