
キュービクルは、高圧の電気を安全に変圧し、ビル・工場・商業施設などで安定した電力供給を可能にする重要な設備です。高圧受電設備にはいくつかの種類がありますが、キュービクルはコンパクトで安全性が高く、設置スペースが少なくて済むため、多くの施設で採用されています。
今回は、キュービクルの仕組みや構造、種類、導入のメリット、設置のポイントまでわかりやすく解説します。
高圧受電設備とは
高圧受電設備は、発電所から送られる高圧の電気を安全に変圧し、施設で利用可能な電圧へ調整するための設備です。6,600Vもの高圧の電気が発電所から送電されますが、実際の設備で使用するには、100Vまたは200Vまで降圧する必要があります。これを担うのが高圧受電設備です。
高圧受電設備には、「受電室式高圧受電設備(開放式)」と「キュービクル式高圧受電設備(閉鎖型)」の2種類があります。
受電室式高圧受電設備(開放式)
受電室式高圧受電設備は、電気室(受電室)や屋外のパイプフレームに機器を配置する方式で、大規模な工場や施設向けに採用されます。ただし、機器や充電部が露出しているため、誤って触れると感電のリスクがあるため、安全対策として離隔距離を20cm以上確保する、または防護カバーを設置することが求められます。
キュービクル式高圧受電設備(閉鎖型)
一方で、キュービクル式高圧受電設備は、金属製の外箱に機器を収めた設計で、安全性が高く、設置スペースも少なくて済むことが特徴です。
キュービクルとは

画像引用元:河村電器産業株式会社
キュービクルとは、高圧受電設備の一種であり、金属製の外箱に機器を収めた安全性の高い受電システムです。コンパクトな設計で設置面積が小さく済むため、オフィスビルや商業施設、工場などで広く採用されています。
主遮断装置の種類
キュービクルは、使用する主遮断装置の種類によって、「PF-S形(高圧限流ヒューズ・高圧交流負荷開閉器形)」と「CB形(遮断器形)」の2種類に分類されます。
PF-S形(高圧限流ヒューズ・高圧交流負荷開閉器形)
PF-S形は、高圧限流ヒューズ(PF)と高圧交流負荷開閉器(LBS)を主遮断装置として使用するタイプです。
高圧限流ヒューズが高圧側のショート時に電流を遮断し、漏電が発生した際には高圧交流負荷開閉器が電流を遮断する仕組みになっています。JIS C 4620の規定により、受電設備容量は300kVA以下に制限されています。
CB形(遮断器形)
CB形は、主遮断装置に遮断器(CB)を使用するタイプで、より大容量の受電に対応可能です。
CB形キュービクルの受電設備容量は、JIS C 4620で4,000kVA以下と定められています。また、点検時の安全性を高めるため、主遮断器の電源側に断路器(DS)を設けることが特徴です。
内部の構成
キュービクル内部の構成は、大きく「受電箱」と「配電箱」の2つに分けられます。
- 受電箱:計器用変圧変流器・主遮断装置などで構成され、受電と電力管理の役割を担う。
- 配電箱:高圧変圧器・高圧配電盤・高圧進相コンデンサ・直列リアクトル・低圧配電盤などで構成され、電力を適切に分配する。
ただし、PF-S形キュービクルでは、受電箱と配電箱が分かれていない場合もあります。
なお、設置場所や保守形態の違いによって、キュービクルはさらに分類されます。それぞれの種類をまとめると、以下の表のようになります。
主遮断装置の形式 | 屋内外用の別 | 保守形態による形状 | 受電設備容量 |
---|---|---|---|
PF-S形 | 屋内用 | 前後面保守形 | 300kVA以下 |
前面保守形(薄形) | |||
屋外用 | 前後面保守形 | ||
前面保守形(薄形) | |||
CB形 | 屋内用 | 前後面保守形 | 4,000kVA以下 |
前面保守形(薄形) | |||
屋外用 | 前後面保守形 | ||
前面保守形(薄形) |
参照元:JISC4620:2018 キュービクル式高圧受電設備
キュービクルの仕組み
キュービクルは、高圧で受電した電力を100Vや200Vといった低圧に変換し、日常の電力供給を可能にする装置です。
発電所から送電される電気は高圧(6,600Vなど)ですが、そのままでは一般の設備や家電製品で使用できません。そのため、キュービクルを設置し、電圧を適切なレベルに変換することで、安全かつ効率的に電力を利用できるようになります。
電力の受電契約には、「高圧受電契約」と「低圧受電契約」の2種類があります。
- 低圧受電契約(50kW未満):小規模な施設向けの契約。家庭や小規模なオフィスなどで利用される。
- 高圧受電契約(50kW以上2,000kW未満):工場や商業施設など、より大きな電力を必要とする施設向けの契約。
電気の使用量が増えるほど、高い電圧で受電する必要があります。これは、電力の計算式によって説明できます。
- 電力(W)=電圧(V)×電流(A)
つまり、電圧と電流が大きいほど供給できる電力も増えます。そのため、電力消費が多い施設では高圧受電契約を結び、高圧の電気を受電する必要があります。
ただし、高圧のままでは直接機器に供給できないため、キュービクルを利用して電圧を100Vや200Vに降圧し、一般の設備や家電製品で安全に使用できる状態にします。
エアコンやIHクッキングヒーターなど、大きな電力を消費する機器は200Vで動作するため、キュービクルによる適切な電圧変換が欠かせません。
キュービクルのメリット
キュービクルは、安全性と省スペース性に優れた高圧受電設備であり、多くの施設で採用されています。従来の受電室式高圧受電設備と比較すると、外部環境の影響を受けにくく、感電リスクが低く、設置スペースを抑えられるというメリットがあります。キュービクルの主なメリットは次の3点です。
- 外部環境の影響を受けにくい
- 安全性が高い
- 設置スペースを最小限に抑えられる
外部環境の影響を受けにくい
キュービクルは金属製の外箱で機器を保護しているため、気候や環境の変化に強く、安定した運用が可能です。そのため、屋外設置にも適しており、耐候性に優れた設計となっています。
一方、受電室式高圧受電設備は、機器が露出しているため、雨風やほこり、温度変化などの外的要因に影響を受けやすくなります。
安全性が高い
キュービクルは機器を密閉型の外箱に収納することで、感電や漏電のリスクを大幅に軽減します。
受電室式では、設備がむき出しになっているため、誤って機器に触れると感電の危険があります。しかし、キュービクルは開閉扉付きの金属製筐体により、誤接触のリスクを最小限に抑えられるため、安全性の高い設計となっています。
設置スペースを最小限に抑えられる
キュービクルは、受電設備を一つの筐体に集約することで、設置面積を大幅に削減できます。
受電室式高圧受電設備では、機器ごとに広いスペースが必要となるため、建物内の設計やレイアウトに制約が生じることがあります。対して、キュービクルはコンパクトな設計のため、設置場所の自由度が高く、狭小スペースにも対応可能です。
キュービクルの構造
キュービクルは、高圧の電気を安全に変圧し、安定した電力供給を可能にする設備です。構造は「外部」と「内部」に分かれており、それぞれに重要な役割があります。
- 外部構造:機器を保護し、安全性と耐久性を確保する
- 内部構造:電圧の変換・制御を行う重要な機器を収納する
ここでは、それぞれの構造について詳しく解説します。
外部構造
キュービクルの外部は耐久性の高い金属製の外箱で構成されており、設備全体を外部環境から保護する役割を持ちます。
- 耐候性・耐久性:屋外設置にも適し、雨風やほこりの侵入を防ぐ
- 点検のしやすさ:計器類を外部から確認でき、保守点検が容易
- 通気機能:内部温度を適切に保つための通気孔を備えている
この構造により、長期的な安全運用とメンテナンスのしやすさが確保されています。
内部構造
キュービクルの内部には、電圧の変換や電力の制御を担う6つの主要機器が収納されています。
- トランス(変圧器):高圧を低圧へ変換する
- 計器類:電圧・電流・電力などを測定する
- 計器用変圧変流器・計器用変圧器:計器用の電圧・電流を安定供給する
- 高圧進相コンデンサ・直列リアクトル:電力ロスを低減し、効率を向上する
- 高圧遮断器・開閉器:電力の遮断・開閉を行う
- 配線用遮断器:低圧側のショートを防ぐ
トランス(変圧器)
トランス(変圧器)は、キュービクルの最も重要な機器の一つであり、高圧で受電した電気を100Vまたは200Vへ降圧します。
- 実際の供給電圧は、配線の電圧降下を考慮し、105Vや210Vに調整されることがある。
- 変圧の仕組みは、鉄心(コア)に巻かれた一次コイル・二次コイルの電磁誘導作用を利用する。
変圧器は絶縁方法によって2種類に分類されます。
- 油入トランス:鉱物油で絶縁し、一般的に広く使用される
- モールドトランス:樹脂で絶縁し、コンパクトでメンテナンス不要だが高価

画像引用元:変圧器の現状について(資源エネルギー庁)
また、電気の用途に応じて、次のように分かれます。
- 単相トランス:照明・コンセント用(単相100V)
- 三相トランス:生産機器・空調設備用(三相200V)
このように、トランスには、絶縁の方法や電気の使用用途によって、複数の種類があります。
計器類
キュービクルには、電気の状態を監視するための計器が複数搭載されています。
- 電圧計:供給電圧を測定する
- 電流計:流れる電流の大きさを監視する
- 電力計:消費電力を計測する
- 周波数計:電力の周波数(50Hz/60Hz)を確認する
- 力率計:電力利用の効率を測定する
計器用変圧変流器・計器用変圧器
キュービクルの計器を正しく動作させるために、計器用変圧変流器(VCT)と計器用変圧器(VT)が設置されています。
- VCT(Voltage Current Transformer):高圧の電流を低電圧・小電流に変換し、計測器に送る
- VT(Voltage Transformer):計器が動作できるように、高圧の電圧を110Vまで降圧
高圧進相コンデンサ・直列リアクトル高圧進相コンデンサは、電力の利用効率を高めるために「力率」を改善する装置であり、直列リアクトルはその動作を安定させるために設置されます。
電力を効率的に使用するには、電圧と電流の位相を一致させることが重要です。しかし、モーターなどの機器では、コイルやコンデンサの影響で電流の位相がずれ、無効電力が発生します。これにより、電力ロスが生じ、電力供給の効率が低下します。
この電力ロスを補正するために、高圧進相コンデンサが使用されます。
- コイルの影響:電流の位相を電圧より遅らせる(誘導性負荷)
- コンデンサの働き:電流の位相を電圧より進ませる(容量性負荷)
進相コンデンサを導入することで、電圧と電流の位相差を小さくし、電力のロスを減らすことができます。

しかし、高圧進相コンデンサを設置すると、「高調波」と呼ばれる不要な電流成分が流れ込み、装置の発熱や異常動作を引き起こす可能性があります。
この問題を解決するために、直列リアクトルを高圧進相コンデンサの電源側に接続します。
直列リアクトルの役割
- 高調波を抑制し、機器の誤作動を防ぐ
- 電力ロスを低減し、電力供給の安定性を向上
このように、高圧進相コンデンサと直列リアクトルを組み合わせて設置することで、電力の効率的な利用を実現し、安全かつ安定した電力供給が可能になります。
高圧遮断器・開閉器
高圧遮断器・開閉器は、キュービクル内で電力を安全に遮断・開閉するための重要な装置です。
- PF-S形キュービクルには、開閉器(LBS)を設置
- CB形キュービクルには、遮断器(VCB)を設置
遮断器には次の種類があります。
- ガス遮断器
- 油遮断器
- 空気遮断器
特に、高圧受電設備では「高圧真空遮断器(VCB)」が主流で、真空中でアークを消滅させ、高い絶縁性能を持つことが特徴です。
配線用遮断器
キュービクルで高圧の電気を低圧に変換した後も、ショート(短絡)や過電流のリスクがあります。そのため、低圧側の過電流を遮断し、配線を保護するために配線用遮断器が設置されています。
まとめ
キュービクルの仕組みや構造について解説しました。
キュービクルは、高圧の電気を安全に低圧へ変換し、安定した電力供給を実現する設備です。外箱によって機器を保護し、安全性とメンテナンス性に優れ、設置スペースも抑えられるため、さまざまな施設で導入されています。
内部にはトランスや計器類、高圧遮断器などの機器が収納され、これらが連携して電圧を適切に制御します。さらに、受電方式により「PF-S形」と「CB形」に分類され、それぞれ異なる特性を持っています。
キュービクルを導入する際は、設置環境や電力需要、受電契約の種類を考慮し、最適な仕様を選定することが重要です。
キュービクルを導入したいけれど、何をすればよいかわからないという方は、電気工事業者やメーカー等、専門家に相談してみることをおすすめします。
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